金城一紀
角川文庫
家族の危機に立ち向かう父の姿が勇ましい。読みやすい文体とテンポの良い物語にぐいぐい引き込まれ、一気に読んでしまった。
大事な一人娘を不良高校生に傷づけられてしまった47歳サラリーマン。父として毅然と立ち向かわなければならないときに、現実に怯え、尻込みしてしまう。家族を支えるべき父の情けない姿に、娘も妻も、そして自分自身さえも幻滅してしまう。
家族を守るために、何ができるのか。大切なものを取り戻すために47歳の挑戦が始まる。
47歳のサラリーマンが、変わるために必死に努力をする姿が印象的。事件を目の前にしたときの情けない姿は同じ父親としては情けなくて見ていられなかった。でも、そんなダメ親父が復讐を誓い、偶然、出会った高校生に助けられながら、、必死に努力していく姿は本当にかっこいい。そして、まぶしい。
物語の終盤、路線バスとの競争に勝った鈴木一に、バスの運転手や常連のサラリーマンたちの祝福を送るシーンが実はお気に入り。突然、同じバスに乗らず、バスと競争をはじめて鈴木一のことを、運転手や乗客ははじめは怪訝に思っていたのではないだろうか。それが、少しずつ接戦になるにつれて、そのがんばりをまぶしく思い、応援していたのだろう。お互いに会話はないけれど、勝利した鈴木一に運転手と乗客全員が賞賛を送るシーンは、とても温かかった。
鈴木一を助けてくれるゾンビーズの面々もおもしろい。「女子校の学園祭になんとか潜り込みたい」という下心はあるものの、状況を楽しみ、イベントとして盛り上げていく姿はなんとも愉快。
物語の中盤での南方の台詞も印象的だ。
僕たちは、僕たちが何をできるのか、どんな人間なのか、見せてやりたいんですよ。僕たちを管理しようとしている奴らとか、将来、僕たちを管理しようとしている奴らに
ただ状況を楽しんでいるだけではなく、彼らにとっても挑戦だったのだと思う。勉強はできなくても、もっと大切なものを持っているように感じた。今度は、ゾンビーズがメインで活躍する物語もぜひ読んでみたい。