恩田陸
文春文庫
男と女の最後の一夜を舞台にした物語。荷物を運び出して部屋を舞台に男女が最後の夜を過ごす。まるで舞台にすることを念頭において書かれたかのような印象。
ヒロとアキの二人の間でかわされる会話は理性的だけど、どこかぎりぎりの印象。覚悟を決めた二人の男と女という感じが伝わってきました。
物語が進むにつれて、少しずつ明らかになっていく二人の関係とある事件の真相。何が真実なのか、ドキドキしながらページをめくりました。
ちょっとしたヒントや些細な記憶から、事件の真相、そして二人の恋の始まりと終わりについて結論を出していく。ここで出される結論は結論でしかない。二人で記憶を探り、想像し、導き出す推論だ。真実かどうかはわからない。でも、その曖昧な結論が二人の最後の夜を加速させていく。そして、決定的に心を引き離す。
最後には、二人の恋の障害も疑いもきれいに解決する。普通なら、ハッピーエンドといきそうなものだけど、そうはならない。障害がなくなったことで、結論が出てしまったことで、恋の火は急速に弱まり消えてしまうのだ。
ひどく生々しく、残酷。でも、真に迫っている。そんな最後だと思う。
だけどね、それは結局、きょうだいとしての愛だった。彼がきょうだいだったからこそ、あたしは彼を愛していた。彼がきょうだいじゃなかったら、異性として愛することもなかったと思う。なんだかおかしな話だけど
また、アキの気持ちの切り替えや、ちょっとしたことで急に気持ちが冷えていくところなどが恐ろしかった。二人の気持ちが丁寧に書かれてあり、妙に納得してしまう部分が多い。人の気持ちは、本当に微妙なバランスで成り立っているのだと感じた。